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2006年 07月 23日
センチメンタル・トゥリップ
昨年秋、北海道へ行ったときの想いを
昨日のポタリングでちょっと思い出して・・・・

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 札幌ドームを見上げると真っ青な空があった。
頬を撫でる風は爽やかで、もう夏の終わりを告げていた。
ドームでの会議のあと私たちは観光タクシーに乗り込んだ。
今日は登別で一泊して翌日の夕方神戸に帰る予定だった。
車窓から白樺の白く光ったような林を見ながらあの時のことを想い出していた。

 1970年夏。私は自転車で加古川から北海道へ来た。20歳だった。
人生の出発点だと思った。これからの人生をどう生きていこうか、
混沌とした夢と不安を抱いていた。
そして「放浪」にあこがれ、それからの旅の原点になったのだ。
人生は旅だという意味においても。
もう詳しいことはほとんど忘れてしまったが、
彼と会ったのは仙台を過ぎた頃だっただろうか。彼も自転車、ぼくも自転車だった。
朴訥であったが、芯の強さを感じさせる奴だった。
銭湯へ入ってドロの湯が身体から流れ落ちるのを周囲を気にしながら入ったり、
ある時は農家に泊めてもらって翌日の弁当までもたせてもらったり、
とりとめのない話をしながら何日かを一緒にテント生活をしながら旅を続けた。
 岩手を過ぎたあたりで別れた。
彼は青森の野辺地まで行って北海道に渡って積丹半島の方へ行くという。
私は青森から函館へ向かうことにした。青森でフェリーに乗った。
船に乗るともはや自分で漕がなくても、じっとしていても前へ進む。うれしかった。
函館に着いたのは確か夕方だった。その日は函館の駅で寝た。
その頃駅で寝る旅行者が多かったのである。
ウトウトとしていると、誰かに「自転車にちゃんとカギをかけておかないと取られるぞ。」
と言われた。ぼくは誰かに自転車を取ってほしいと思った。
そうすれば帰れると思った。理由をつけて。
長い自転車旅行で3度ほど、そんなふうに思ったことがあった。
 函館を出て一路札幌をめざした。早朝の大沼公園でのことだった。
前方に自転車が停まっているのが見えた。黒い半ズボン姿の人が見えた。
「あっ!」そう声をあげた。向こうも気付いたようだった。
「うぉぉぉぉっ!」言葉にならなかった。二人で声をあげて近寄った。再び会ったのだ。
まさか、会うとは思ってもみなかった。彼だって同じだっただろう。
過ぎ去ったことであったのだから。会おうとしても会えないかも知れないのに。
その後、それぞれの道を行くため別れた。
どこの誰だかも知らない。もし会えるならもう一度会ってみたいと思う。

 「白老のポロトコタンです。今からちょうど公演が始まりますから急いで行ってください。」
観光タクシーの運転手に促されてコタンに入る。
ムックリという口にくわえて糸をはじくと「ビョーン、ビョーン」
と響く楽器の演奏や、踊り、歌など、りりしい若者が説明している。
天井にはサケの燻製が所狭しと、吊ってある。
民家もきれいに整備され、みやげ物の店も公園へ行くまでにたくさんならんでいる。
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 あの時、白老のアイヌコタンは観光客でいっぱいだった。
小屋といったほうがいいのか、木彫りの実演をやっている古老がいた。
口のまわりを薄く刺青をした年配の女性がいた。
そんな店がたくさんあって、どの店も観光客がたくさん入っていた。

 今、この白老のポロトコタンに立っている。
何かしら懐かしいような気持ちがこみ上げてくるのを感じた。
静かだ。
「銀の滴降る降るまはりに、金の滴降る降るまはりに。という歌を私は歌ひながら・・・・」
という『アイヌ神謡集』のなかの「ふくろうの神が自ら歌った謡」というのを思い出していた。
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 コタンを出るともう午後3時前になっていた。空港に向かう時になっていた。
私たちは車に乗り込んだ。しばらくすると、運転手が「このあたりは苫小牧です。
南へ行くと室蘭です。」と言った。苫小牧、室蘭。これも懐かしい地名だった。
そうだ、きっとこの道だったのだろう。

夜、真っ暗な道を、センターラインをたよりに、
時々通る車のライトで進む方角の様子を見ながら走った。それがここ、苫小牧だった。
心細い気持ちを吹き飛ばすように、ただひたすら走った。
そして室蘭。帰り道、青森をめざしてフェリーに乗った港だった。
フェリーが青森に近づくにつれてムッとした空気が体を包みだした。
青森に着いた。夜だった。
着物を着た若者たちが奇声をあげてエネルギッシュに飛び跳ねていた。
ねぶた祭りだった。私はそれ以後も旅を続けた。

 機上の人となった私は、満足していた。
一日だけの観光旅行だったけれど、いろんなことを想い出させてくれた。
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by seascape_point5 | 2006-07-23 20:37 |


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